原告側の人身傷害事務所は、AI が最も早く採算に乗る法務の買い手です。誰も時間を請求しないからです。1 件の組み立てに 45 日ではなく 90 日かかっても、依頼者の負担は増えません。増えないかわりに、事務所は受任する余力がなかった次の 1 件を失います。買っているのは効率ではなくスループットです。そしてボトルネックは診療記録です。CASEpeer の 2026 年トレンドデータでは、人身傷害事務所の 56% が「診療記録の要約と分析」を AI ニーズの第 1 位に挙げており、リストの他のどの項目よりも上位です。
このスタックは、委任契約の締結からアジャスターの机に載るデマンドまでの 4 つの仕事をカバーします。あわせて、ベンダーが代わりに言ってくれない主張を 1 つ置きます。ケース管理システムの選択が AI の選択を縛るのであって、その逆ではありません。 順番を間違えると、案件ファイルに手作業のアップロードでしか届かない AI プラットフォームに、シート単位で支払うことになります。
土台 — Filevine か Clio か
Filevine は、件数が多い事務所と集団訴訟系すべての土台です。 固定された案件モデルではなくカスタム workflow を軸に組まれた原告側ネイティブのケース管理システムで、数千件の係属案件を回す事務所がここに落ち着く理由もそこにあります。受任と紹介トラッキングは Lead Docket を通ります。Filevine は 2024 年半ばと 2025 年終盤にクローズした全額エクイティの 2 ラウンドで 400M ドルを調達し(1 回目は Insight Partners がリード、2 回目は Accel と Halo Fund が共同リード)、2025 年 9 月時点の評価額は 30 億ドルです。ドラフティングの厚みは 2 度買い足しています。2025 年の Parrot は現在の Depositions by Filevine、2026 年の Pincites は現在の LOIS for Word です。自社 AI も載っています。診療経過表の MedChron、デマンドレターの DemandsAI、デポジションの第 2 席として働く Depo CoPilot、AI の出力を案件のカスタムフィールドに書き込む AIFields です。価格は見積のみで、シート数とモジュール次第でおおよそ 1 ユーザー月あたり 50〜150 ドルに着地します。導入は Filevine のプロフェッショナルサービスを伴って 60〜180 日かかります。workflow のカスタマイズそのものが製品だからです。
Clio は、弁護士 15 人程度までで交通事故や施設責任の標準的な案件を回す事務所の土台です。 このスタックで唯一、価格を公開している構成要素です。現在の段階は EasyStart、Essentials、Advanced、Expand で、clio.com/pricing 上では 1 ユーザー月あたり 49 ドルから始まります。第三者のトラッカーは上位段階を年額で 89 ドル、119 ドル、149 ドル前後としていますが、Clio がサーバー側でレンダリングしているのは入口価格だけなので、上位段階は「確認済みの見積」ではなく「追跡値」として扱ってください。AI レイヤーの Clio Duo は、そのページ上では別枠のトグルであり、標準機能ではありません。2025 年 6 月にクローズした 10 億ドルの vLex 買収は、プラットフォームの背後に実体のあるリサーチコーパスを置きました。Clio が小規模な人身傷害事務所にもたらすのは深さではなく(深さでは Filevine が勝ちます)、弁護士 6 人の事務所が四半期ではなく 1 週間で稼働でき、その差額を AI レイヤーに回せることです。
分岐の判断基準 — 係属案件数を数え、受任フォームに本当に必要なカスタムフィールド数を数えてください。係属 500 件を超えるか、集団訴訟の案件群が 1 つでもあるなら Filevine です。それ未満で交通事故と施設責任が中心なら Clio です。
AI レイヤー — 1 つだけ買い、土台を決めてから買う
このスロットを争う原告側ネイティブのプラットフォームは 3 つあり、重なりは大きく、3 つとも診療経過表とデマンド作成をこなします。事務所が 2 つを併用して同じ経過表に二重払いするのは珍しくありません。
Supio は記録起点の選択肢です。 中核単位は診療記録そのもので、モジュールもその線に沿います。Supio Intake、Medical Chronologies、AI Demand Letters、Case Ledger、Litigation Drafting、Cross-Case Analysis、そして集団訴訟向けのトラックです。調達額は約 9,100 万ドル(2024 年 8 月のシリーズ A が 2,500 万ドル、2025 年 4 月のシリーズ B が Sapphire Ventures のリードで 6,000 万ドル、Thomson Reuters Ventures が参加)で、この TR ラウンドは製品面のアクセスを伴いました。Westlaw のリサーチが CoCounsel Legal 経由で Supio の中に届く構成で、Supio が前面に出す裏付けの物語がこれです。
EvenUp はデマンドと評価額の選択肢です。 総調達額は 3 億 8,500 万ドル、頂点は 2025 年 10 月に Bessemer がリードした 1 億 5,000 万ドルのシリーズ E で、評価額は 20 億ドル超です。2,000 社を超える事務所で週あたり約 10,000 件を処理していると公表しています。エンジンは自社モデル Piai の上に載る Claims Intelligence Platform で、人身傷害事件と診療記録で学習しています。堀は類似評決のコーパスです。デマンドを書けることではなく、類似の案件がいくらで和解したかを知っていることが売りです。
Eve はライフサイクルの選択肢です。 名前のついたモジュールは事件の組み立てより広く伸びています。事務所単位のダッシュボードの Analyst、24 時間のリード選別の Intake Auditor、通話中に委任契約を締結する Intake Signing、データ抽出の Atlas、ドラフティングの Agents、Comms Agent、Eve Research です。調達額は 1 億 6,400 万ドルで、Andreessen Horowitz がリードした 4,700 万ドルのシリーズ A と、Spark Capital がリードし 2025 年 9 月に評価額 10 億ドル超でクローズした 1 億 300 万ドルのシリーズ B の合計です。他の 2 社にはない調達リスクを 1 つ抱えています。2026 年 6 月、AI.Law がカリフォルニア州北部地区連邦地裁に Eve と親会社 Butler Labs を相手取り特許侵害訴訟を提起しました(事件番号 3:26-cv-05930)。非構造データを長文書式の文書に変換する手法をめぐるもので、本案は未決着です。ガード — この訴訟をカバーする補償条項とサービス継続条項を求め、初回の契約期間は 12 か月に留めてください。直接比較は Supio vs Eve と EvenUp vs Eve にあります。
誰も見積に入れない継ぎ目
ベンダーの機能ページより先に、統合ページを読んでください。本日時点で、EvenUp の統合ページが名指ししているのは Litify、SmartAdvocate、CASEpeer と、文書保管の SharePoint、Google Drive、Dropbox です。Filevine と Clio は載っていません。EvenUp は要望に応じたカスタム統合を提供するとしています。Supio のサイトが名指ししているのは Litify、MyCase、CASEpeer、Westlaw で、あとはコネクタと API の説明です。ここでも Filevine も Clio もありません。Eve は自社サイトでケース管理のパートナーを 1 社も名指ししておらず、既存システムと連携するか単体で立つと述べるにとどまりますが、Clio のアプリディレクトリには Eve の掲載があります。
実務上の帰結は居心地の悪いもので、この節を 2 度読むべき理由でもあります。Filevine を土台に選ぶと、3 社のいずれも Filevine 向けコネクタを公表していません。 選べるのはカスタム統合、手作業アップロード、そして Filevine 自身の MedChron と DemandsAI です。Clio を選ぶなら、掲載があるのは 3 社のうち Eve だけです。代わりに Litify、CASEpeer、SmartAdvocate を選べば、3 社すべてが開かれます。ガード — 名指しのコネクタは営業トークの口約束ではなく、稼働日付きの契約条項として書面に落としてください。ベンダーが確約しないなら、1 件あたり 15 分程度でファイルを手作業で動かすパラリーガルという代替手段を、初年度の予算に織り込んでください。
受け渡しの連鎖
委任契約の締結 → 土台が案件を開き期限の時計が動き出す → 記録の取り寄せを出し、届いた記録が土台の文書保管に入る → コネクタが AI レイヤーへ同期する → 経過表と損害の全体像が返る → デマンドの草案 → 弁護士のレビュー → デマンド送付。
スタックが元を取るかどうかを決める連鎖は、逆向きに走ります。和解額または判決額を、AI レイヤーがデマンド前に出した評価額に対して、全件、解決から 1 週間以内に書き戻すことです。 この書き戻しがないと、評価エンジンが自分の管轄と傷害構成に対して高いのか低いのか妥当なのかを永久に学べず、2 四半期も経つと弁護士は黙ってその数字を信用しなくなり、分析を手作業でやり直します。担当はパートナーではなく、案件をクローズする人に割り当ててください。
コストの現実
弁護士 12 人、新規案件が年 400 件前後、弁護士とパラリーガルと受任担当を合わせて 25 シートの事務所の場合です。
- 土台に Filevine — 見積のみで 1 ユーザー月あたりおおよそ 50〜150 ドル。25 シートで年 15,000〜45,000 ドル前後、加えて初年度の導入費が 10,000〜40,000 ドル。
- 土台に Clio を置く場合 — 公開価格で 1 ユーザー月あたり 49〜149 ドル。25 シートで同じく年 15,000〜45,000 ドルの帯に入り、導入費の下限はありません。
- AI レイヤーは 1 社、約 15 シート — Eve のベンチマークが 1 ユーザー月あたりおおよそ 100〜300 ドル、Supio が 150〜400 ドル、EvenUp が 200〜500 ドル。選び方次第で年 18,000〜90,000 ドルです。
- 診療記録の取り寄せ — この 5 製品のどれもカバーしない別立ての費目です。
合計はソフトウェアだけで年 50,000〜135,000 ドル前後で、AI レイヤーと土台がほぼ同じ重さになります。
デモが飛ばすコストの注意点が 2 つあります。1 つ目、料率よりメーターが効きます。EvenUp は 2025 年 5 月にシート課金と並べて案件単位課金を追加しており、案件単位の報告ではデマンド 1 通が 300 ドル前後です。年 400 件ならおよそ 120,000 ドルでシート課金より不利ですが、年 150 件を下回る事務所は案件単位のほうが有利になります。両方の見積を取り、自分の件数を両方に通してください。2 つ目、Supio も EvenUp も Eve も価格を公開していません。上の帯は第三者の市場推計なので、交渉のアンカーではなく予算のレンジとして扱ってください。
よくあるバリエーション
第三者の AI レイヤーを外し、Filevine 自身のものを使う。 切り替えの基準 — 土台が Filevine で、デマンドの件数が年 200 件程度を下回るなら、AI ティアの MedChron と DemandsAI は 2 社目のベンダーより安く、統合の継ぎ目もまったくありません。不満が処理時間ではなくデマンドの質や評価額の正確さに変わったら乗り換えてください。そこが類似評決のコーパスが価格分を稼ぐ場所です。
AI の選択肢を開いたままにするために土台を選ぶ。 切り替えの基準 — ケース管理システムをまだ買っておらず、欲しい AI ベンダーがすでに決まっているなら、Filevine や Clio ではなく Litify、CASEpeer、SmartAdvocate を土台にしてください。3 社の AI ベンダーはいずれも、このうち少なくとも 2 つ向けのコネクタを公表しています。
Eve を土台と AI の両方として動かす。 切り替えの基準 — 弁護士 5 人未満でケース管理システムを持たない事務所は Eve 単体で始められます。Intake Auditor と Intake Signing が案件の入口を、Analyst がレポーティングを押さえるからです。係属 150 件程度を越えたら本物の土台を足してください。預り金会計と期限管理は Eve の役割ではありません。
適合ルール
このスタックが正解なのは、次のときです。
- 成功報酬の人身傷害を件数で回している(交通事故、施設責任、医療過誤)。記録レビューとデマンド作成が受任キャパシティの上限になっている
- 新規案件が年 200〜1,500 件あり、1 件あたりの時間短縮が署名済み案件に複利で効く
- 結果の書き戻しを毎週担う人がいる
- 土台と AI レイヤーを、この順番で、同じ予算サイクル内に買う
このスタックが誤りなのは、次のときです。
- 件数が年 100 件程度を下回る。よくできたデマンドのテンプレートと記録担当のパラリーガルのほうが、30,000 ドルの AI 契約より強い
- 被告側または保険会社側の実務である。これらのツールは原告側の経済性と原告側の損害観の上に組まれている
- ボトルネックが組み立てではなくリードの流入である。それはマーケティングと受任の問題で、経過表エンジンでは空のパイプラインは直らない
- ケース管理システムの移行の途中である。移行を終えてから統合してください
このスタックが置き換えないもの
- 診療記録の取り寄せ。 医療機関から記録を出させるのは独立したベンダーカテゴリであり、独立した遅延要因です。ここに挙げたツールはすべて、PDF が存在してから動き出します。
- リーエンの整理と和解金の支払い。 Medicare、Medicaid、ERISA、医療機関のリーエンは別の workflow であり、別のソフトウェアです。
- 預り金会計と IOLTA コンプライアンス。 Clio はこれを標準で押さえます。Eve 単体のバリエーションを採るなら、どこかで別途必要になります。
- 弁護士の評価額の判断。 類似評決の数字はデマンドへの入力であって、デマンドそのものではありません。管轄、依頼者の見え方、テーブルの向かいにいるアジャスターは、どのコーパスにも入っていません。
- 訴訟そのもの。 ここにあるものはすべて提訴前の組み立てとデマンドのために作られています。提訴後のデポジションとディスカバリのツールは別の買い物です。Depositions by Filevine と Depo CoPilot は土台側に並び、文書量の多い事件には eDiscovery スタックが要ります。
- 完成文書としてのデマンド草案。 どの製品も、弁護士が署名する草案を出すところまでです。ドラフティングの工程をベンダーではなく自分の手元に置きたいなら、デマンドレター作成 skill が自前で組む側の選択肢です。